登山

今年77歳になる義理父の唯一の趣味が「登山」です。

昔からとにかく頭の良かった義理父は、超有名大学の法学部を卒業後、一流会社のサラリーマンとして働いていました。

しかし、家業の業績があまり良くないとのことで強制帰還させられ、義理祖父を一生懸命手伝っていたそうです。

それでも時代の流れにうまく乗れなかったため、家業を一度閉鎖。

自らの手で会社(お店)を興しました。

その会社も今年で23年目。

今では私が引き継いで頑張っております。

 

そんな義理父はとにかく仕事人間でした。

365日ほぼ休むことなく働き、家業の借金と新会社の開業資金を工面するべく奮闘していたわけです。

いつも無口であまり多くを語らない人でして・・・

おまけに、お酒もたばこもギャンブルも全くやらない人で、一緒に働いている時も「この人何が楽しくて生きているんだろう」と自分は毎日疑問に思っていました。

その義理父には唯一無二の趣味が実はありました。

それが「登山」です。

 

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学生時代にはワンダーフォーゲル部に所属していたようで、全国津々浦々の山を登っていたと聞きました。

会社が軌道になるまでの10年以上は仕事ばかりでとても登山などしている余裕はなかったようですが、私が少しは仕事ができるようになると、年に1度程度は登山を再開するようになりました。

数年前にはスイスのアルプスへ行ったり、エベレストを間近で見るためにネパールまで行っていましたね。

私に会社を譲ってからは堰を切ったように、毎月どこかの山へ出かけています。

今までできなかったことを一生懸命、本当に楽しそうにやる義理父を見て「少しは親孝行できているのかも?」なんて思ったりもします。

そんな義理父に私が登山を勧められたのは今から9年前です。

 

学生時代からあまり運動を積極的に行ってこなかった私が、一番嫌いなアクティビティー「マラソン」や「ランニング」でした。

中学生時代、毎年行われるマラソン大会は3年連続「棄権」という名誉な記録を持っているくらいです。(途中であまりにも嫌になって家に帰っちゃいました)

そんな私が30歳になったと同時になぜかランニングに目覚めました。

好きな音楽を聴きながら、一人で黙々と走り続けることの気持ちよさに気づいてしまい、しまいには地元のマラソン大会にも出場してしまいました。

歳をとると「食べ物の好みが変わる」なんて言いますが、運動も体の動かし方も変わるんですかね?

夢中でマラソンをする私を見て、ある時義理父が一枚の写真を見せてきました。

どこかの山頂で取られたであろう綺麗な写真です。

そして一言・・・

「どうせ走るなら山に登れ!体力も付くし心も洗われるぞ!」と。

数日後、山登りをしている友人に相談して地元の山に登ったのが全ての始まりです。

 

その友人から登山の仕方、道具、地図の見方、マナーなどを学びました。

そしてその後は一人で登山に出掛ける日々が始まります。

そのほとんどが日帰り登山です。

早朝の暗いうちから車を走らせ、日の出とともに登り始め、昼過ぎには下りてくるのがルーティーンになりました。

(休みの日の夕飯の支度は私の仕事ですので、いつも早めに帰ってきます)

好きな音楽を聴きながら黙々と山頂を目指して歩を進め、山頂では綺麗な景色を見ながらおいしいコーヒーと朝ご飯を食べ、その後は短編の小説を30分ほど静かに読むのが私の登山の楽しみ方です。

 

何度も登山に出掛けるうちに、すっかり足腰は丈夫になりました。

そして、登山上級者の方と一緒に3000メートル級の山々を登るまでに!!

今では「趣味は登山です!」と胸を張って言えます。

登山が趣味の義理父も、私の登山スピードと行動力に思わず「負けたよ!」と言っていました。

何度か義理父とも一緒に登りましたが、互いのスピードと歩調が合わなくなり一緒に行くのを辞めたくらいです。

登山を始めるまで、まさか自分にこんな脚力や持久力があったとは思いもしませんでした。

中学生時代本気で走ったらマラソン大会で上位に入れたんじゃないか?とさえ思います。

登山は自分の隠れた能力を引き出してくれた趣味ですね。

 

そんな私に最近「登山をしてみたいです!」と言ってくる若い人間が複数人現れました。

教わる側から今度は教える側になったわけです。

つい先日その若者4人を連れて山梨県の2600メートルの山に行きました。

標高は高いですが、頂上までのアクセスが良く、初心者でも登りやすい山です。

天気も良く、山頂では絶景が待っていました。

若者たちは皆その絶景に目を輝かせていましたね。

ちなみに私はその山に登るのは5回目でしたのであまり感激することはありませんでしたが、メンバーたちの表情を見ていると「連れてきてよかった~」と思うばかりです。

いつもは一人で登ることが多いので、他人のペースに合わせて登るのは逆に疲れましたが、いい経験が出来たと思います。

義理父にもそのことを報告したらすごく喜んでいました。

 

TV番組の企画でやっているような過酷な山に挑戦する気はあまりありません。

特に冬の雪山なんて一生行かないと思います。

あくまで自分の体力づくりと心をリフレッシュすることが最大の目的です。

来週も一人でいつもの山に登ろうと思っています。

おいしいコーヒーとパンを担いで・・・