北海道の旅①

今から8年前のことです。

私はまだ下っ端従業員として前社長の下で日々仕事をしていました。

そんな時取引先からこんな案内状が前社長のもとに飛び込んできたんです。

「次世代若手経営者セミナー」

 

私は日々現場で業務をこなすだけの毎日。

どこかで研修や座学を受けることなんて全くと言っていいほどありませんでした。

それでもどこかでこうした研修を受けてみたい!という気持ちだけはあったんです。

前社長に「行きたいんだけど!」とお願いをしたら「こんなもの行かなくてもいい!現場で覚えるのが一番!」なんて反対されました。

数日後、取引先の偉い方が会社に現われこう言いました。

「息子さんもそろそろ後を継ぐべく準備を始めるべきです。この研修には全国から息子さんと同じような立場の方々が大勢集まります!絶対に刺激になると思うので参加させてください!」

それでも前社長は難色をしてしていましたが、最後に私が言ったセリフが事態を大きく変えました。

「今後自分がこの会社を継ぐのに必要なのは人脈だよ!外にいる色々な人の意見や考え方を学ぶ機会をどうして与えてくれないの?行かせてくれないなら俺辞めたいんだけど・・・」

しばらくすると前社長がしぶしぶ参加同意書にサインをしてくれました。

 

冷静に考えたら行かせたくなかったのではなく、行かせられなかったのかもしれません。

当時は従業員5名でまわしていました。

誰かが休めばお店は毎日大混乱です。

研修は3泊4日が合計で5回!

年間20日も私がお店にいない状況を考えたら非常に苦しい決断だったのかもしれません。

 

数か月後私は初めての本格的な研修に参加しました。

都内で行われる研修に参加するため、スーツケースに荷物を詰め込み、普段はまったく着ることのないスーツを着て参加したんです。

 

研修は取引先の本社で行われました。

京橋にある超巨大企業の本社会議室です。

部屋に入った瞬間!そこにはスーツを着た30代~50代の体つきの大きな方々がみな静かに着席していました。

どの方々も自分よりも立派で堂々としていて「こんな場所に来てしまって大丈夫なのか?」と非常に不安になったのを今でも覚えています。

 

研修は朝から晩までとにかくハードでした。

私は配られたテキストを必死に読み、メモを取り、グループワークでは誰よりも発言するように心がけました。

それが良かったのか?

「君真面目だね!すごい熱心だね!」なんて皆さんから評価され始めます。

だって今この時間、我が社では少ない人数で前社長と従業員が自分の代わりにお店を切り盛りしてくれているんです。

ここで自分がしっかりと何かを学んで帰らないと会社に失礼でしょう。

私はとにかく必死でした。

 

初日の研修が終わった後はみんなで懇親会が開かれました。

そこで多くの方々とお酒を飲みかわし色々な話をしたのですが、私は翌日までに出された課題のことが気になってしまってあまり酔うことが出来ませんでした。

その時、懇親会には2名の方が参加していませんでした。

非常に気になっていましたが「きっと何かあるのかな?」と思いながら、私は深夜までホテルの自室で課題を完成させました。

 

翌日、課題を提出するように言われ私は提出をしました。

しかし、25名ほどの参加者がいながら課題をきちんと仕上げて提出したのはなんと!

私だけ・・・

後の方々は「昼休みに仕上げて提出します!」なんてのんきなことを言っています。

私の先生からの評価、研修生からの評価はこの時一気に上がりましたね。

 

二日目の研修を終え、またまた懇親会です。

皆さん地方から来ている方が多いため、東京で羽目を外すことばかり考えています。

キャバクラ・ラウンジ・風俗・・・

研修の休憩中にはそんな話題で持ちきりでした。

しかし、私はそのような場所が本当に苦手です。

何とか断る口実を探していました。(正直な話、当時は遊ぶお金なんて全くなかったんです)

二日目の研修が終わり、みんなが「さ~遊ぶぞ!」と張り切っている時、昨晩の懇親会に参加していなかった2名の方が部屋を静かに出ていきました。

その時私は勇気を振り絞って声をかけたんです。

「よろしかったらこの後ご一緒させていただけませんか?」

この一言が今回の北海道旅行へと繋がります。

 

 

その2名の方は本当に凄い方でした。

1人は自分よりも3つ年上の経営者さん(W社長)です。

父親の家業を継いで今では5店舗を構える敏腕社長です。

もう一人の方はこの業界で北海道では知らない人はいない!という位大きな会社の専務さん(N専務)でした。実質ナンバー2の方です。

私はそんなすごい方々とも知らずに一晩ご一緒させていただきました。

 

飲みの席で私は色々な質問をしました。

最初は面倒くさそうに答えていた二人も私の真剣な表情にやがて心を打たれたらしく(後で聞いた話ですが・・・)いろいろな事を教えてくれました。

その時思ったんです。

今回の研修の目的はこのような優秀な経営者や人材と出会い、とにかく自分の見分をもっと広めモチベーションをさらに上げることだ!と・・・

 

その後の研修でもその2名と一緒に過ごす時間が必然的に増えていきました。

4回目の最後の研修で先生がこう言いました。

「この中から1人リーダーを決めてください。そのリーダーにはこの研修が終わった後も色々な繋がりを持ってもらうつもりです。誰かいませんか?」

先生のその言葉を聞いた瞬間!

全員が私を見ました。

どうやらそういう役回りのようです。

 

その1年後、研修生と先生は東京に再度集まり1泊2日の同窓会を行いました。

宿の手配、食事処の手配、会議室の手配、翌日の観光バスの手配・・・

すべて自分が行いみんなが楽しんでくれたことは私の自信にもなりましたね。

 

その後も連絡を取り続けていますが、コロナもありなかなか第2回の同窓会が開催できずにいます。

それでも私を可愛がってくれていた2名の大先輩はコロナ禍でも時間があれば私に声をかけてくれて、3人で年に数回は会っていたんです。

毎回、ゴルフをしたりおいしいお店を紹介してもらったり・・・

この関係は今日まで続いておりました。

 

3月のことです。

都内で会合があった際に3人でゴルフと食事を千葉でしました。

その際、北海道の専務さんからこんなことを言われました。

「いつも俺が飛行機でこっちに来るばかり!いつになったら北海道に来るんだ?よし!6月に北海道にこい!いいか約束だぞ!2人そろってだからな!」

専務はそう言って都内の会合には出ずに北海道に帰っていきました。

 

 

会合を終えた2日後、1枚の封筒が会社に届きました。

専務からです。

封を開けるとそこにはなんと!

エスコンフィールド 日本ハム vs 阪神 戦」のチケットが2枚入っていました。

私はすぐに専務に電話をしました。

「専務!すみません!チケットいただきまして。しかもバックネット裏の良席!本当にありがとうございます。」とお礼を伝えました。

すると「このチケットがあれば否が応でも北海道に来ねばいけね~べ!待ってるからな!」と電話を切られました。

 

こうして今回の北海道行が決まったんです。

 

 

その日から私はすぐに旅行の準備を始めました。

1泊にするか?2泊にするか?

何時の飛行機に乗ってどこに泊まるか?

移動手段はどうするか?

 

実はこのスキル!研修生の同窓会の幹事で身につけたと言っても過言ではありません。

どこで集まって、どう移動して、何をして、どこで食事をして、どこに泊まって・・・

何通りものプランを考え、時刻表や旅行のパック、食事処の営業時間、現地での移動手段と時間を綿密に決めていきます。

2月に息子二人を連れて行った京都旅行なんてまさにこれなんです。

ちなみにW社長はこう言ったものをまとめるのが正直あまり得意な人ではありません。

結局全ての段取りを私が考え手配しました。

 

そして6月11日、私は羽田空港でW社長と待ち合わせをし北海道へ向けて出発したんです。