3月の中旬から繁忙期が再び始まりました。
我々の業界は11月・12月そして3月・4月がとにかく忙しいです。
この4ヶ月で一年の売り上げの半分以上を稼ぎます。
今年は春の訪れが早く、繁忙期が例年よりも早く、そして急に始まりました。
2月末で若いスタッフが辞めました。
何をやらせても中途半端で向上心がなく、人間的にも未熟な男でしたが、繁忙期にはそれなりに活躍はしてくれていました。
そんな彼が辞め5人体制に!
通常は7人体制でお店を回します。
繁忙期には臨時バイトも入れて8人でやることもあるくらいです。
しかし、今年の繁忙期は5人!
2月から求人はかけましたが、そう簡単に人は見つかりません。
運よく2名の正式採用にこぎつけましたが、2名とも前職を辞められるのが3月末とのこと・・・
3月は何とか5人で乗り切るしかない!と腹をくくりました。
しかし、我々の想像を超える忙しさです。
コロナが落ち着いたことも影響しているのか?
例年よりも明らかにお客さんが多いです。
毎日朝から晩まで休憩なし、飲まず食わず!!
スタッフは定時に帰すようにしていますが、私は朝7時から夜12時までとにかく大忙しです。
飲みに行っている暇など全くありません。
そこで、私の後輩に臨時アルバイトを頼みました。
長男に部屋を紹介してくれたMです。
火曜日だけならお手伝い出来ます!と言ってくれました。
たった一日だけでも非常に助かります。
しかし!あまりの忙しさにスタッフは休みも取れず疲れ切っています。
もちろん状況はみんな理解してくれていますし、私が毎日18時間近く働き詰めの状況も見ています。
誰も文句も言うこともないですし、泣き言を口にする余裕もない状況でした。
それでも経営者としてこの状況を放置するわけにはいきません。
来月からは状況が変わるとはいえ、何とかする責任があります。
そんな時、一人の男がふらっとお店に現われました。
昨年の8月に私が解雇した従業員です。
4年ほど前、やはり人が足りないときに救世主のごとく入社したNを私は本当にかわいがりました。
以前も書きましたが、仕事のやり方、物事の考え方、社会人としての知識と教養、遊び方を一から教えて育てたものです。
彼女もよく知っていましたし、のちに結婚、出産をした際には盛大にお祝いもしました。
Nへの投資は惜しみなくしました。
おそらく100万以上は個人で出資したと思います。
それでも彼は私の期待に応えることが出来ず、最終的には私を裏切るような行為が目立ち解雇となりました。
解雇の際にはそれなりに揉めましたが、その後はお互いに冷静になり連絡は取り合ってもいました。
そんなNが突然現れこんなことを言い出したんです。
「あの~俺を今すぐぶん殴ってくれませんか?やっぱり俺はダメ人間です!」
聞くところによると、会社をクビになってから就職活動を行ったようですが、20社以上から断られたようです。
すっかり自信を失っていて、その姿を見るとこちらも切なくなるくらいでした。
とりあえず日雇いのアルバイトで生計を立てているようですが、女房・子供がいる身ですから心配せざるを得ません。
あまりにも心配になり「詳しく話聞いてやるから飲みに行くか?」と言ったら「もちろん!お願いします!」と言われたので翌日飲みに行くことにしました。
Nと飲むのは一年ぶりでしょうか?
行きつけの飲み屋に呼び出し話を聞きました。
自分の力の無さ、人間としての未熟さ、大切にしてくれた人への無礼な態度をそれはそれは反省しているようで、その目に嘘はありませんでしたね。
私が解雇してでも伝えたかったことを今やっと理解し始めていたようでもありました。
私もお店が大変な状況にあることを包み隠さず話しました。
そうなるとお互いに「手伝ってくれ!」「ぜひ手伝いますよ!」という話になるものです。
一度は仲たがいのような形で別れましたが、お互いの信頼関係はそう簡単に崩れるものではなかったんだと思います。
3日後からNが手伝いに来ました。
他の従業員の気持ちが心配でしたが、解雇される日までコミュニケーションはよくとっていたので、みんな気持ち良く迎えてくれました。
それどころか、忙しい最中に登場した救世主にみんなホッとした表情で仕事をさらに頑張ってくれました。
Nともみんな笑顔で接していて安心もしましたね。
Nは結局7回ほどアルバイトに来てくれました。
しかし!アルバイト最終日にやはり心配していたことが起こります。
Nの奥様がお店に現われたんです。
Nを雇い入れてからというもの、奥さんもよく食事や遊びに連れて行っていました。
子供が生まれた時にはカミさんも交えてお祝いし、まさに家族のように接していたんです。
しかし、Nを解雇してからは連絡も取ることはなく顔を合わせる機会もありませんでした。
奥さんからすれば突然旦那が信頼していた人から解雇されたわけです。
その理由も本人からどのように聞いていたのかわかりませんが、私に対する不信感と怒りがある事は重々承知していました。
しかしこのような状況になった以上、私からとやかく何かを言えば傷口に塩を塗る事にもなりかねません。
本当に申し訳ない!
どんな気持ちでいるのか?
いつかはきちんと話をしなければいけないのかも?
と思いながらこの数か月を過ごしていました。
アルバイトが終わる時間に奥さんが娘を連れて会社に来ました。
最初はお互いにニコニコしながら挨拶をしましたが、その目は以前会った時とは全く違うものでした。
話しているうちに奥さんが目に涙を浮かべてこう言いました。
「どうしてこんなことになったんですか?クビにしておきながら都合が悪い時だけ利用するんですか?理解できません!」
そう言われることも、そう思われることも覚悟はしていました。
そんな話をしていることも全く気にせず、Nは他のスタッフと楽しそうに黙々と仕事をしています。
なんだか複雑な心境にはなりましたが、ここは心を鬼にして私はこう言いました。
「クビになった理由も経緯も分かっているよね?でも今こうして彼は次のステップに向かって頑張っている!ここでは一見輝いているように見えるけど、彼の居場所はここではない!今回仕事が見つからずにプラプラしている彼と、少しでも人出が欲しい私のとの利害関係が偶然一致しただけ、嫌なら断ることもできたはず!でも彼はお手伝いに来てお金を少しでも稼ぐことを選択した!もし嫌な思いをさせたのなら謝るけど、もう一度夫婦できちんと話し合うべきなんじゃない?」
奥様はさらに涙を浮かべていましたが、私の言うことも今置かれている状況も理解しようとしてくれているようでした。
結局業務終了後まで奥様はNを待っていました。
すると!
「この後時間ありますか?せっかくなんで飲みに行きませんか?」と声をかけられました。
結局そのまま私の行きつけの飲み屋さんで飲むことに!
奥様とは何度も飲んだ仲なのでここでは終始会話が弾んでしまいました。
お互いにかなり酔っ払いながらお開きに・・・
申し訳ない気持ちと懐かしさ、虚しさ、嬉しさ・・・
色々な思いを感じながらの数時間でしたね。
Nは翌日ある企業の面接を受け無事に採用が決まったみたいです。
私から言われたことをそのまま実践したら採用されました!なんて報告をされると余計に複雑な心境になるものです。
Nはきっと私のそばにいると甘えが出てしまうのでしょう。
これからは私の手を離れ、社会人としても父親としても立派に成長してもらいたいですし、そうなってもらわないと私としても残念でなりません。
これからもNとNの家族をの幸せを心から願いますし、困ったことがあればサポートをしてあげたいと思います。
お互いにいい未来が待っていることを信じて!