川﨑で会食(ちょっと変わったメンツで)

今から5年前!

取引先にひとりの若手新入社員が配属となりました。

Mというめちゃくちゃ頭の悪そうな男です!!

取引先である弊社に挨拶に来たのですが、どうみても仕事が出来そうには見えません。

詳しく話を聞くと、出身は東北の岩手県

5人兄弟の3番目で、一番下の妹はまだ当時幼稚園児だったというから驚きです。

小学校はバレーボール・中学校はバレーボールとアイスホッケー・高校ではアイスホッケーに専念し、そのまま北陸の大学へ進学しアイスホッケーを続けたそうです。

運動神経がとにかく万能で、スポーツしかしてこなかったというからそりゃ頭が良さそうには見えなかったわけです。

ちなみに高校時代の同級生はスキージャンプでメダリストの小林陵侑だそうで、いまだに連絡を取り合える仲なんだとか・・・

そんな彼の歓迎会を入社して3か月後に行いました。

その際ちょっとした事件が起きまして・・・

その事件から私とMとの関係は大きく変わりました。

 

 

歓迎会の日、私は取引先の所長と一足先に二人で飲んでいました。

Mを含めた社員たちは残業を終えてから合流する段取りとなっていたわけです。

しかし!Mを含めた社員たちは残業もそこそこに近くの居酒屋で軽く一杯始めていました。

所長が「そろそろ合流させますね!」といって電話をかけると明らかに様子がおかしかったみたいです。

「今から社長と合流するからいつものカラオケBOXを予約して部屋を確保しておいてくれ!」と所長が指示を出し、私たちは連絡が来るのを待っていました。

しかし、一向に連絡が来ません。

仕方がないので私と所長はカラオケBOXへ向かいました。

案の定!そこには誰もおらず・・・

私は「仕方がないですよ!若い人同士で盛り上がっているんじゃないですか?先に部屋で待っていましょうよ!」と言いカラオケBOXで先に待つことにしました。

しばらくすると所長が機嫌の悪そうな声で再び電話をかけました。

「一体何をやっているんだ!社長を待たせてるんだぞ!いい加減早く来い!」

所長は私に「すみません!本当にすみません」と何度も謝ってきましたが、私は特に気にすることも無くハイボールを飲んでいましたね。

すると所長からこんな提案がありました。

「社長!このままあいつら来て社長が笑顔で迎えてしまったら私は立場上困ります!教育の意味も含めて説教してあげてください!芝居でもいいので!!」

そこで私は閃きました!

「これってモニタリングっていう番組かドッキリのTVみたいに面白くできるんじゃないか?」

所長と簡単な小芝居の打ち合わせをして彼らを待つことにしました。

 

 

10分後Mを含めた4人の社員が部屋に入ってきました。

「お疲れ様で~す!」と!!!

その時私はソファーに横になり所長は私の前で土下座していました。

その姿を見た社員たちの顔色は一気に変わります。

所長も演技が上手く「社長のお怒りもごもっともです!この度は本当に申し訳ございません!さーお前らも頭を下げなさい!」と泣きそうな声でセリフを言います。

私は「おい!お前ら!所長にこんなことさせていいんか?お前らが歓迎会やりたい!社長にも同席して欲しい!と言うからわざわざ時間を割いて来ているんだぞ!こんな屈辱的な扱いを受けたのは初めてだ!もう我慢ならん!」とかなり強い口調で言いました。

当然若手社員たちは直立不動のまま、私と目を合わせることも出来ず、今にも漏らしてしまうのではないか?と思う位ビビっていました。

それもそのはずです!

私がこのような態度をとることはまずありません。

昔さんざん生意気な態度をとって、たくさんの人に嫌な不快な思いをさせてきたのを私は後悔しながら今日まで生きてきました。

そんな私が急にキャラに似合わない態度をとったもんだから誰もが驚くはずでしょう。

自分でも演じているうちに昔の自分を思い出して、恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になっていました。

でもその真っ赤な顔が余計に効果的だったのかもしれません。

一通り演技を終えると30秒くらいでしょうか?カラオケBOXに沈黙が流れ、緊張感はMAXとなりました。

ここで所長が「社長!もういいでしょうか?」とネタバラシの合図を送ったので私はカラオケのマイクをMに1本渡し「本日は素敵な歓迎会にお誘いいただきありがとうございました~皆さん今夜は盛り上がっていきますよ~みんなでどんちゃん騒ぎだ~」とマイクで叫びました。

次の瞬間!!

Mは膝から地面に崩れ落ち床に座り込んでしまいました。

他の社員も胸に手を当て「いや~本当に人生終わったかと思いましたよ~」と涙を浮かべて安堵の表情を見せていましたね。

ドッキリ大成功です!!

 

その後Mを抱きかかえ私はとなりの席に座らせました。

「ごめんね驚かせちゃって!今日は君の歓迎会だから一番楽しんでくれな!」と声をかけカラオケ大会は無事スタートしたわけです。

 

 

ここまではよくある笑い話でしょう。

しかし!この後大変な事件が起きるんです。

Mはゴリゴリの体育会系です。

私と同じペースでお酒を飲み、さらに場を盛り上げようと一気飲みやらダンスやら

合いの手やら・・・

とにかく「こいつ大丈夫か?」というくらい飲んでいました。

私はその様子が心配になり「もうやめておけ!お前はウーロン茶にしろ!」とアドバイスをしたのですが「社長と同じもの飲ませていただきますよ!」と、いうことを聞きません。

お酒の比較的強い私と同じペースで若い子が飲めるはずはありません。

案の定Mは途中でトイレに行ったきり帰ってきませんでした。

心配になった私はトイレにMを見に行きましたが、扉の向こうからの反応がありません。

私は扉をよじ登り中の様子を伺いました。すると・・・

そこには便器に顔をうずめたMの姿がありました。

呼吸はしていましたが食べたもの、飲んだものを全て便器にぶちまけています。

扉を開け彼を介抱しなければと必死でしたが、段々と意識が遠のいていくようでもありました。

その後容体はどんどん悪くなり、とうとう吐血が始まりました。

「これはまずい!」と思い救急車を呼びました。

お店にこれ以上迷惑をかけることが出来ないので、全員で彼を担いでお店の外へ連れて行き救急車の到着を待ちます。

吐血はさらにひどくなりまさに緊急事態です。

10分後に救急車が到着しそのまま緊急搬送となりました。

幸い車で15分ほどの地元の病院が受け入れてくれたので私たちはタクシーで病院へ向かうことに・・・

病院に着くとすぐに緊急処置が始まりました。

「急性アルコール中毒

私も若い時に経験があります。

病院に運ばれるまでには至りませんでしたがその時の記憶は未だにありません。

深夜3時の病院の待合室で彼の容態を心配しながら待っていたあの時間は本当に心が痛みました。

私の軽率な行動が彼をこんなに苦しめてしまうなんて・・・

万が一Mにもしものことがあったら私はどうしたらいいのか?

彼の両親になんとお詫びすればよいのか?

色々と考えているうちに手が震えてきたのを覚えています。

 

しばらくすると先生から「もう大丈夫だと思います。血圧も戻りましたし脱水症状も収まりました。明日まで緊急入院させますがすぐに良くなると思います。どうぞお帰りください」と言われ、今度は私が膝から崩れ落ちました。

緊張の糸が一気に切れるとはまさにこのことかもしれません。

次の日、Mは無事に退院し翌日から通常業務をこなしていました。

これが私とMとの最初の出会いです。

 

 

運動神経抜群のMは私の草野球チーム「ワンコイン野球」のメンバーにもなりました。

野球経験が全く無いのに見様見真似で出来てしまうM!

コロナ禍では私の所属しているソフトバレーボールチームの準メンバーにもなりました。

バレーで中学生の時、全国大会に出ているMの凄さにチームメイトは皆驚いていましたね。

私の子供ともバレーをする機会もあり、気づけばもはや身内のような存在に!

 

そんなMは仕事上で数々のトラブルを起こしました。

交通事故・発注漏れ・取引先への無礼・上司の指示無視などなど・・・

数えたらきりがないほどです。

そのたびに一緒に飲みながら励まし指導してあげたのですが、ある日彼の心がポキッと折れてしまいます。

軽い鬱状態になり、いつものMではなくなってしまいました。

結局彼は退職する決断をします。

送別会は行われないまま彼は一度私たちの前から姿を消しました。

 

Mから連絡があったのは退職してから1年後でした。

大学時代の友人の紹介で大手の不動産販売の会社に就職をしていました。

全くの異業種!完全実力主義!営業力と行動力がモノをいう仕事!完全歩合制!

Mはとんでもない場所で働いていたんです。

そんな大変な仕事で悩んでいたのでしょう。

私に相談したいとの連絡があり一緒に飲みました。

それでも久しぶりに会ったMはとても活き活きしていて、まるで別人のようでもありました。

気分転換にソフトバレーチームにも再び顔を出すようになり、ますます私と子供達との関係も深まっていきます。

そんなMは実力をメキメキと発揮しだします。

家をバンバン販売し、25歳にして年収が1000万を超えるまでになりました。

私が従業員の退職で困っている時は「社長の為なら何でもします!」と言ってくれて手伝いにも来てくれました。

そして昨年の3月には長男の部屋を見つけてきてくれて、本当に頼もしい存在になってくれたんです。

 

そんなMは今年も手伝いに来てくれています。

スタッフの手は足りているのですが、仕事の後の私との呑みを楽しみにしてくれているようでもありました。

そんなMが数か月前にひとりの女性を紹介してきました。

学生時代に知り合った子と付き合うことになったようです。

「社長にはきちんと報告と紹介をしておきたいんで!」と言われた時には本当に嬉しかったですね。

その後Mはその子との結婚を決意します。

本当に嬉しくて涙が出そうになりました。

「じゃ~お祝いしよう!来週ね!」と言って今回の会食となったわけです。

 

 

会食の場所は川崎でした。

Mと長男が住む街です。

私は仕事を終え川﨑へ向かいました。

Mが予約をしてくれていた焼肉店で待ち合わせです。

この日は私とM、そして婚約者と長男という異色の組み合わせでもありました。

 

 

「好きなものを好きなだけ頼みなさい!」と言うと、各々遠慮なく頼み始めます。

美味しい焼肉にお酒も進み、話も盛り上がるものです。

 

 

結局3時間ほど会食をして解散をしました。

長男が「帰るの?」と聞いてきたので「なわけないでしょう!お前の部屋に泊めてくれ!」と言って長男の部屋に転がり込んだわけです。

 

 

長男の部屋に来るのは引っ越しの手伝いをして以来でした。

比較的綺麗にしていて安心もしました。

 

私はコンビニで買った酒をまた飲み始めました。

「明日仕事だから早く寝たいんだけど・・・」

長男がそう言うまで酒を飲み続けるダメ親父です。

 

 

台所を見ると自炊の痕もうかがえました。

 

 

それほど心配はしていませんでしたが、セルフマネジメントは出来ているようでホッとしたものです。

 

翌朝7時半に長男と一緒に部屋を出ました。

そのまま私は副業の為に横浜へ!

結局、各自の持ち場でそれぞれの役目を果たしているわけです。

なんだか子供二人の成長を見守る立派な父親になったような勘違いをしながら家路に着きましたが・・・

家に帰るとカミさんから「なんで勝手に転がり込んでるの?クレームのメール来てたよ!」と怒られました。

やはり立派な父親ではないようです。

 

Mよ!幸せにな!