レンタル彼女

友人Tと数か月ぶりに会いました。

彼とは行きつけの飲み屋さんで5年前に知り合いました。

いつもカウンターで一人寂しそうに飲んでいたT。

たまたまお店が混んでいる日に相席になり話をしたのがきっかけです。

 

 

年齢は39歳。

私よりも5つ歳下であまり話が上手ではありません。

独身で彼女いない歴20年以上!

少し太っていて髪の毛もボサボサ!

髭が濃くて夕方になるとすでに髭が生えそろってしまうようなやつです。

友達も多くなく一人飲むのが唯一の楽しみだと言っていました。

そんな彼とはお互いにベイスターズが好き!というだけで意気投合しました。

あまりにも仲良くなりハマスタに野球を観に行くことも多くなりました。

 

Tの仕事はシステムエンジニア

通称SEと呼ばれる仕事です。

毎日大きなビルの地下室にある巨大なサーバーを相手に保守や点検などを行っているそうです。

毎日誰も出入りしない部屋で一人黙々と作業をする日々・・・

当然友達はおろか彼女もできないでしょう。

でも話してみるととても優しくて、人の表情やしぐさから気持ちを汲むのが上手なヤツです。

一度だけ「いつも機械ばかり相手にしていてよくその能力が身に付くね!」と聞いたところ「機械も人間も同じですよ!機嫌がいい日もあれば悪い日もある!どちらも繊細だから少しの違いにも気を付けないと仕事が出来ないんだ!」なんて格好いいことを言っていました。

 

そのTと数か月ぶりに行きつけのお店で再開しました。

するとTの様子がおかしいんです。

ボサボサだった頭はきちんと整えられていて、体型も少しスリムになっていました。

髭もきちんと整えられ「ちょい悪オヤジ感」漂う男になっていました。

私はすぐにピ~ンときました。

「彼女でもできたな・・・」と!

しばらくお互いの近況を話しているとTが突然こんな話をし始めました。

「最近女の子と出かけるのにハマっていまして・・・」

「おまえにも彼女が出来たんだな~ よかった~嬉しいよ!」と言うとTはすぐにこう言いました。

「彼女じゃない!レンタル彼女ですよ・・・」

 

 

実は大好きな女優さんが出演するドラマが4月から始まりまして・・・

そのドラマのタイトルは「明日、私は誰かのカノジョ」

人気コミックを実写ドラマ化したものです。

「レンタル彼女」で小銭を稼いでいる女性たちの生き様を描いた非常に興味深い作品でして、原作は知りませんが大好きな女優さんとドラマの内容が面白そうなので毎週見ています。

だからTから「レンタル彼女」というワードが飛び出した時、私は芋焼酎吹き出しそうになりました。

ドラマの中だけのフィクションだと思っていたら、身近な人間が利用していたんですからそれは驚きます。

 

Tが「レンタル彼女」にハマったきっかけはバレンタインデーだったようです。

バレンタインデーの数週間前、39歳にもなって彼女はおろか、女友達もいない自分がなんだか惨めになったと言っていました。

そこで意を決して「出会い系サイト」を試してみたようなのですが、やり方も手順もよくわからず挫折・・・

そんな時、ふと目にした「レンタル彼女」の広告にすぐに反応してしまったそうです。

すぐに好みの女性を見つけコンタクトを取ったらあっさりとバレンタインデーに会う約束が出来たみたいで、結局バレンタインデーに3時間ほど一緒に食事をしたりお茶をしたと嬉しそうに話してくれました。

 

性的サービスは一切ないのが「レンタル彼女」だそうです。

1時間の平均額は4000~8000円程度で、交通費と食事代なども依頼者が負担するようです。

「そんなサービス成立するの?」と正直思いましたが、Tが言うには「とにかく相手はプロ中のプロ!会っている時は全力で彼女を演じてくれるんだよ!」と力説してきます。

下の名前で呼んでくれたり手を繋いで歩いてくれたり、本当に彼女のように振舞ってくれるのだとか・・・

そんなのに2万くらい払うなら風俗やキャバクラに行く方が手っ取り早いじゃん!と

一瞬思いましたが、冷静に考えれば彼女のいない39歳の孤独なオッサンにはちょうどいいサービスなのかもしれません。

 

今ではすっかりお気に入りの子が出来て、すでに3~4回リピートしているそうです。

GWには生まれて初めて彼女(レンタル)と水族館デートしたんだ!と嬉しそうに写真まで見せてくれました。

そしてTが放った次の一言が私の胸にグサッと突き刺さります。

「毎回休みの日が楽しみで仕方ないんすよ!仕事もそれで頑張れるんです!」

 

「休みの日が楽しみ」・・・

いつからでしょうか?休日に楽しみを見い出すことなんてなくなりました。

私の休日はもっぱら家の用事や接待ゴルフ、趣味のピアノのレッスンや草野球の練習会!そして遊ぶお金を稼ぐための副業に使われています。

もちろんそれはそれで楽しいですが、休日が仕事の延長線上にあるのは間違いありません。

普段できない用事を済ませる!といった感覚が強いですかね?

だからTの言葉を聞いた瞬間になんだかとても羨ましく感じたんです。

 

子供が小さい時には「休日は家族でどこかにお出かけしよう!」とか「今日はいっぱい遊んであげよう!」なんて楽しみがありましたが、子供が大きくなった今は全くありません。

なるべく自分の趣味に時間を使っていますが、仕事上の付き合いも多く、なかなか有意義に使える日は少ないのが現状です。

休日に何か特別な楽しみを作るなんてなかなか出来ないものです。

 

Tの生きがいを否定するつもりもありませんし、「レンタル彼女」で彼の心が満たされるのであればそれはそれでいいことです。

おかげでTも39歳にして垢ぬけました。

贔屓目に見ても、そこそこ頼りがいのある男らしい感じになってきました。

いいサービスに出会えたと思うしかありませんね?

 

さて、ドラマに夢中になり、さらにTの話を聞いてから「レンタル彼女」にどんどん興味が湧いてきてしまいました。

色々な会社のサイトを無意識に見ている自分がいます。

もちろん利用するつもりなんて全くありません。

私の性格上「どうせ演技なんでしょう!別にそういうのいいから・・・」となることは間違いないからです。

それでも「どんな感じなのかな~?」と興味だけは自然と湧いてくるあたりがもうすでにヤバイオッサンでしょうか。

来月もTに会うのでまた色々な話を聞いてみようと思います。