先日、いつもお店をご利用いただいている常連のお客様から素敵なプレゼントをいただきました。
C.BECHSTEINのエプロンとエコバックです。
お客様とのお付き合いは15年ほどになります。
先代の社長である義理父がよくお世話をしていた方です。
当時私は作業を主に行っていたので、お客様と直接お話するようなことはあまりありませんでした。
ただ、いつも車の中に音楽関係の雑誌やパンフレット、そして機材や見慣れない楽器が積んであったので「この人は音楽関係の仕事をしているのかな?」と思ってはいました。
先代が引退し私が引き継いでからも、業務的な会話が多くあまり突っ込んだ話をすることはなかったんです。
しかし、昨年私が音楽の勉強を始めたことでその方との関係性は大きく変わりました。
昨年の9月頃でしょうか?
オイル交換にお越しいただいた際に、その方は頑丈そうなアタッシュケースを持っていました。
そして店内でお待ちいただいている間にアタッシュケースを開き、何やら道具の整理を始めました。
そのアタッシュケースの中には昔よく見たある工具がぎっしりしまわれていたんです。
チューニングハンマーや音叉、そしてウェッジ、ミュートでした。
それらは幼い頃ピアノを習っていた自分には非常に懐かしい工具でした。
40年前、私にピアノを習わせるため両親はアップライトのピアノを買いました。
恩師の指示で1年に1回はそのピアノを調律するよう言われていた両親は、真面目に調律師を自宅に招き調律を依頼していたんです。
調律師さんが自宅に来るたび、幼心に「この人は人の家のピアノをバラバラにして一体何をしているんだろう?」と不思議に思っていたものです。
また、調律師さんが調律をしていただいている間は「大きな物音をたてるな!静かにしてなさい!」と厳しく言われていたので、子供のはしゃぎ声と母の怒鳴り声がいつも響き渡る我が家にとって、唯一静寂が流れる時間でもありました。
小学生の頃になると調律師さんの隣でじ~っとその様子を見せてもらうようになりました。
チューニングハンマーやミュートを使いながら2時間ほど静かにピアノに向かう姿はなんだかとても格好良かった記憶があります。
何度か「よかったら少しやってみる?」と言われて道具を使わせていただいたこともあります。
そして毎回調律が終わると「弾いてみてください!」と言われ下手くそなピアノをプロの前で弾かされるんです。
調律師の方は私がピアノを弾いている間、じっと目を閉じて音色を確かめていましたね。
そして必ず「どうですか?音色と鍵盤の重さは大丈夫ですか?」と聞かれるんです。
当時はそんな細かいことまで気にしてピアノを弾いていなかったのですが、調律が終わるたびに「なんだかいい音色になったな~」という漠然とした感覚だけはありましたかね?
中学生くらいになると耳が発達してきたのか?生意気にも調律師さんに「ハンマーを調整して鍵盤をもう少し重くしてください!」とか「低い部分の音をもっとシャープにできますか」なんて生意気な注文をし始めました。
そのたびに「わかりました!調節し直します」といって調律師さんを困らせていたと思います。
一度だけ調律師さんに「とても耳が敏感ですね!絶対音感の持ち主ですか?」なんて聞かれましたが残念ながら全くそのような才能はありません。
ただ、自分の耳の感覚を頼りに注文をつけていただけなんですけどね。
とんでもないガキンチョでした。
そのお客様が持っていた道具に昔の思い出が蘇り思わず声を掛けてしまったのは必然だったと思います。
お客様からも「よく知ってるね~ なにピアノでもやってたの?」と聞かれ、すっかり話が盛り上がったんです。
後で聞いたのですが、そのお客様は様々な楽器の調律を行っているそうで、特に「チェンバロ(ハープシコード)」の調律が出来る数少ない方なんだとか。
その道ではかなり有名な方だったんです。
また、これも偶然だったのですが生まれ育った地元がお互いに近かったことで妙な親近感が湧きまして、色々な話をするようにもなりました。
15年もお客様としてご利用いただいていたのに・・・
きっかけなんてそんなものなのかもしれません。
私は物欲があまりないのですが、25年近くずっと欲しいものがあります。
それが「C.BECHSTEIN」のグランドピアノです。
初めて弾かせてもらった時からすっかりその音色の虜になりました。
もちろん高級車が1台買えるような値段ですが、いつかは絶対に買うと心に決めております。
それを目標に10代の頃からコツコツ貯金をしてきましたが、減っては増えて、また減っての繰り返しでなかなか貯まらないのは別として・・・
しかし、いつかは自宅に置いてセレブな生活をするのが夢でもあります。
そのお客様にもそのことをお伝えしたところ「今度見積持ってくるよ。自宅の間取りも調べに行くよ。買う時はぜひ私に声をかけてくださいね!」と言われました。
なんだか買う方向で話が進んでいますが、その方が仕事に対するモチベーションも上がりますかね?
そんなやり取りをした数日後、素敵なプレゼントをいただいたわけです。
もはやこのお客様からピアノを買わざるを得ない状況になりつつありますね。
目標の金額まではまだ半分以上あります。
夢の実現の為、今日も真面目に働くだけですね。
ちなみに実家にあった思い入れのあるピアノは家の売却と共に「ピアノ売ってちょ~だい」のCMで有名なところに引き取られたようです。