昔から乗り物にあまり興味がありませんでした。
男の子が物心がつくと興味を持つのは大体乗り物です。
電車やバス、パトカーや白バイ、消防車や飛行機・・・
そんなものに一切興味を持つことなく大人になりました。
しかし!
たった1つだけ唯一興味を持った乗り物がありました。
「カブ」です。
新聞配達の方や郵便配達の方が必ず使うバイクがホンダのスーパーカブです。
今はだいぶ様変わりしましたが、昔は「配達員=カブ」というのが一般的でした。
そして私が最も興味を抱いたのは出前で使われているカブです。
紺か濃い緑の車体の荷台に積まれている「マルシン出前機」
上下左右に水平を保ちながら揺れる様に心奪われたんです。
それからというもの出前のカブを街で見かけるとすぐに反応してしまうようになりました。
そして「いつかはカブに乗りたい!」と本気で思うようになったんです。
そんな幼少期の憧れなんてすっかり忘れていた25歳の頃、あるTV番組に出会いました。
「水曜どうでしょう」です。
北海道のローカル局であるHTBが深夜枠で放送していたマイナーな旅番組でしたが、斬新な企画と何より「大泉洋」の圧倒的なキャラクターが人気を呼び、関東でも放送されるようになりました。
その番組の中で行われた企画を見た時に、私のカブに対する幼少期の憧れが蘇ってきたんです。
「原付日本列島制覇」
タレント二人がホンダのスーパーカブに乗って一般道を走行しながら全国を走り回るという企画です。
この放送を見てからというもの、カブを購入するためにお金を貯めました。
私の会社は車関係です。
もちろん従業員全員車も免許も持っています。
しかし、ほぼ全員がバイク通勤です。
敷地が狭く、駐車スペースに限りがあるからです。
敷地外で駐車場を借りることは可能ですがそれなりの経費が掛かります。
そこで私を含め従業員は全員バイクか自転車で通勤している訳です。
もちろん交通費はきちんと支給しているので、比較的ガソリン代がかからないバイクはお店にとっても従業員にとっても好都合なのでしょう。
そんな通勤で使うバイクをカブにするべく1年以上かけてカミさんを説得する日々が始まりました。
もちろんカミさんも水曜どうでしょうの大ファンです。
しかし、安月給の我が家に立派なカブを買う余裕などありません。
私はカブの燃費の良さ、丈夫で長く乗れることをカミさんにアピールしまくりました。
するとある日奇跡的にOKが出たんです。
前日に水曜どうでしょうの企画「原付ベトナム縦断1800キロ」のDVDを一緒に観ていたゲラゲラと笑っていたからでしょうか?
早速カブを購入すべく色々と調べました。
すると1台の展示車が目に留まったんです。
自宅から車で30分ほどのところにあるバイク屋さんに展示されていた「リトルカブ」でした。
カブには「スーパーカブ」「リトルカブ」「クロスカブ」「ハンターカブ」など限定車も含めて色々な種類があるのはご存じでしょうか?
その中でも最もコンパクトで自転車に乗るような感覚で使えるのがリトルカブなんです。
タイヤもボディーも一回り小さく、小柄な私と猫の額ほどしかない我が家の駐車場にはもってこいのバイクでした。
すぐに現車を見に行きその場で契約をしました。
価格は23万円。
「10年は乗る」とカミさんと約束をしてリトルカブが私の愛車になったわけです。
30年抱き続けた夢を叶えた瞬間でもありました。
それからというもの、リトルカブは通勤はもちろん、取引先への引き取りや訪問、プライベートでの買い物などに大活躍でした。
一番の思い出は「ツーリング」です。
会社の従業員はバイクが大好きです。
そんな従業員から「ツーリングに出かけましょう!」と誘われました。
結局取引先の人も交えてのツーリングは15回も行われたんです。
もちろん私のリトルカブは50ccです。
高速道路やバイパスなどは走れません。
一般道をひたすら走り色々なところに出かけるスタイルです。
他のメンバーは125ccだったり1300ccだったり様々な大型バイクで参加します。
最後のほうはハーレーダビットソンまで参加していました。
その大型バイクを私のリトルカブが引き連れて一般道を走るツーリングです。
ルールは特別で、「私を抜いてはいけない!」というものでした。
ヘルメットにインカムを装着し会話をしながら一般道をチンタラ走るツーリングの様はまさに「水曜どうでしょう」の企画そのものでした。
50ccのリトルカブを先頭に大型バイクが連なって走る光景は異様だったと思います。
1日で370キロ走ったツーリングもありましたね。
そんな過酷な使われ方をしても全く壊れないのがカブの凄いところです。
今日まで元気よく動いてくれています。
物作り大国である日本を象徴する乗り物でしょう。
ちなみに燃費はリッター45キロ走ります。
そんなリトルカブともお別れする日がやってきました。
新しく入社した従業員に譲る為です。
車通勤が出来ない我が社にとってバイクは必需品です。
しかし、若くバイクを購入する余裕がない従業員は不便を強いられます。
そこで思い切って私のリトルカブを譲る決心をしました。
思い入れのバイクではありますが、会社や彼のことを思うと苦渋の決断でもあります。
しかし!実はこれはいい口実になったんです。
カミさんにそのことを話し、今度は私が本家本元の「スーパーカブ」を購入することにしました。
「どこにそんなお金があるのよ!自分の小遣いで買いなさい!」と言われましたがあの当時とはお財布事情が違います。
今の私には日々コツコツと貯めているへそくりがあります。
そのへそくりで購入することにしました。
カミさんにはローンで買ったという事にしていますが・・・
そして本日いよいよ納車されます。
リトルカブは結局9年乗りました。
暑い日も寒い日も一生懸命働いてくれたリトルカブに感謝しかありません。
若い従業員には「俺の思いがたくさん詰まった思い出のバイクだから大切に乗ってくれ!」と言い聞かせてあります。
私のカブへの思いは生涯続くことでしょう。
ちなみに地元では「カブ社長」なんて呼ばれています。