読書

父が本の虫でした。

父の部屋にはとにかくたくさんの本がありましたし、毎日仕事帰りには本屋さんに寄り道して新しい本を買って帰るのが父のルーティーンだった気がします。

そんな父とは対照的に私は本を読むのが嫌いでした。

 

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活字を読むことは嫌いではないのですが、物語を活字で最初から最後まで読むなんて行為は非常に退屈だったんです。

そんなの映画やドラマで映像としてみた方がはるかに効率的ですし、記憶にも残ると今でも思うことがあります。

子供の時必ず出される宿題「読書感想文」!

毎回嫌でしたね。

本を読むことを強制され、さらにその本について感想を述べなければいけないなんて・・・

小学生の頃から「教育の一環としては間違っている!」と真剣に思っていたくらいです。

ですので、私は読書感想文を書く時には映画を観て書いていました。

文章を書くことに全く抵抗はなかったので、いちいち時間をかけて本を読むなんて無駄なことは一切せずにスラスラ書いていました。

 

両親からは「本を読め!」と口うるさく言われました。

本を読んでいれば国語の勉強なんて一切しなくていい!とまで言われましたね。

その言葉を信じ、何度も読書に挑戦しましたが毎回すぐに挫折しました。

 

中学生になると新聞は読むようになりました。

目に留まった記事はパパっと読むのが自分のスタイルです。

高校生になると「週刊誌」を買って読むようにもなりました。

芸能人のプライベートやどうでもいいライフハック、そして少しエッチな記事・・・

下世話な話題ばかりの記事に真剣に目を通していましたかね?

大学生になるとさらに興味の幅が広がり、経済紙や歴史コラムなどの雑誌を夢中で読むようになりました。

自分に必要な情報がそこにはたくさん溢れていたからです。

おかげで大学のレポートはその雑誌の言葉を多数引用することでスラスラ書けたものです。

それでも「読書」という行為には全く興味は湧きませんでした。

 

昔から「フィクション」が苦手でした。

作られた空想の話を読んでも役には立たないと思っていたからです。

気が付けば雑誌や新聞は読んでも、本を読むようなことはほとんどないまま大人になってしまいました。

 

結婚して義理父と出会いました。

義理父もまた本の虫でした。

しかも驚いたのは私の父よりもはるかに読書量が多いことです。

父の読書量なんて比べ物にならないくらいの本好きでした。

今でも印象に残っているのは義理父、義理母、カミさん、私の4人で食事に出かけた時のことです。

テーブルに着くなり義理父は本を読み始めました。

家族でご飯に来ているのにこの人は会話も楽しまず一人本を読むのか?

その行為を義理母もカミさんもまったく気にしていません。

どうやらカミさんの家庭ではこの光景が普通だったようです。

さすがに私の育った環境、価値観とは違いすぎるために驚きました。

そしてすぐに私は義理父にこう言いました。

「家族で食事に来ている時はみんなで会話を楽しみましょうよ!本はいつでも読めるでしょう。今この時間をみんなで共有したらどうですか?」

義理父は驚いた顔をして私を見ていました。

もっと驚いていたのは義理母とカミさんです。

いままで誰も義理父に注意しなかったことを私が口にしたからです。

義理父はすぐに本を閉じ一言「そうだな。君の言うとおりだ!」と言って苦笑いしていました。

その日以降、義理父が食事の席で本を読むことは無くなりました。

義理母とカミさんも「この人凄いこと言っちゃったよ~」という目で見ていましたが、きっかけなんてそんなものかもしれませんね?

 

そんな義理父と仕事を一緒にするようになってからは何だが本に興味を持ち始めました。

義理父の仕事場にはいつも大量の本がありました。

堅苦しいものから若い人が読みそうな恋愛小説まで、バリエーションも豊富でした。

そしてある日、一冊の本が目に留まりました。

「永遠のゼロ」という本です。

 

よく読んでいた雑誌のコラムで取り上げられていたのでその本の存在は知っていました。

非常に分厚い本でして、読むのは大変そうだな~といった印象です。

読むのは大変そうなので義理父に「どんな本?内容を要約して教えて」と言いました。

すると義理父は黙ってその本を私に差し出しました。

そして「人によって捉え方が全く違う内容だ!自分なりの解釈で読んでみろ!」

その日の晩、私はその本を開きました。

 

その本はあまりにも衝撃的でした。

気がついたら徹夜で本に夢中になっていましたね。

夜の9時過ぎに読み始め、気がついたら朝になっていました。

最後の一行を読み終えて初めて朝であることに気が付いたくらいです。

この時生まれて初めて本を読みながら鳥肌が立ちました。

そのくらい面白い本でした。

今まで読書を完全否定してきた人間が読書に目覚めた瞬間でもあります。

15年前の夏でした。

 

その日以来、私はすっかりほんの虫になりました。

義理父が持っている本を片っ端から借りては読む毎日です。

義理父もそんな息子を可愛く思ったのか?次々と本を貸してくれるようになりました。

そして毎回本を読み終わるたびに感想や考察を話し合うのが義理父とのコミュニケーション手段にもなったいましたね。

さらに、私の読書スピードは他の人よりも早いようで、気が付けば年間200冊以上の本を読むこともありました。

だんだんエスカレートしてくると義理父に読みたい本をリクエストして買わせていたくらいです。

毎回義理父はニコニコしながら本を買ってきてくれました。

 

本をたくさん読むと無条件に知識が増えてきます。

今まで全く興味がなかったことまで次々と頭の中に知識がインプットされていきます。

そしてどんどん頭が良くなったような錯覚に陥ります。

本を読み始めてから3年ほど経つと「自分は頭がいい人間だ!」と勘違いが始まりました。

この頃から少し鼻にかかるような言動が目立ち始めます。

完全に勘違い野郎です。

しばらくすると義理父にこう言われました。

「知識は大切だ!だけどもっと大切なのは知恵だ!」と・・・

この言葉をきっかけに本と向き合う姿勢も変わっていきましたね。

 

最近は忙しさのあまり本を読む時間がなかなか取れていません。

今年に入ってからまだ10冊程度しか読んでいないような気もします。

今はただただゆっくり本を読む時間が欲しいですね。